(前回のあらすじ)
国際列車の中で会った美女は高身長のドイツ人。食堂車内の男たちがしつこく話しかける中、ドイツ語がわからず黙りこくっていた私をテーブルに誘う。テーブルは小さく、向かい合って座ると膝と膝がくっつきそうなくらいだ。どうでもいいがこの人、身長は私と同じくらいなのに座高はずっと低い。さてそれはともかく、詐欺師か美人局か。
女性「どうしてもお話ししたかったことがあるんです。実は……」
スイスまでの電車代が足りないから3万円貸せ、それとも、病気の父の治療費が、と来るか。他の男性陣から隔離された私はかなり緊張していた。
女性「ボーイフレンドのことなんですが……」
私に彼氏になってくれとでも言うんですか。さらに詐欺的な臭いがした。お嬢さんそれはいけません。
女性「実はボーイフレンド、日本人なんです。相談に乗ってほしくて」
だから私に声をかけたんですね。ちょっと拍子抜け。
女性「朝ごはんに何が食べたいか、って聞いたら、ボーイフレンドが『味噌汁とごはん』って言うんです。これって普通じゃないですよね?」
普通だと思います。
女性「味噌って豆でしょ? なんでそれを朝に食べるんですか。豆と米は夕食に食べるものです」
私も子供の頃「コーンフレークを夕食に食べたい」と言ったら「それは朝に食べるものだ」とたしなめられたっけ。でもドイツ人は朝にパンを食べるし、日本の米はパンと同じなんだよ。ドイツでは米がサラダに入っていたりするけど。ごはんは炊いて味をつけずに盛りつけるんだ。
女性「お米は炊けると思う。味噌汁は見たこともないけど作ってみるわ。朝食には他に何を作ればいいのかしら」
あと漬け物と出し巻き卵に干物があれば最高だなあ、と思ったけれど説明しきれる自信がなかったので、魚でも焼いておけばいいよ、と答えた。
女性「私、魚は食べられないの」
なんと。全然だめなのかい。
女性「イカなら食べられるけど」
いや、それは魚じゃないから。イカは日本の朝食にはあまり登場しない。
女性「イカは魚よ。ドイツ語ではティンテンフィッシュだもの」
イカは英語でもドイツ語でもフィッシュなのか。じゃあイルカやクジラも魚なのかな、と言ったらこれが禁句だった。
女性「クジラ? そういえば日本では今でもクジラを食べているのかしら。クジラは人間の友達なのよ」
even nowに力を込めておっしゃる。ドイツ人もウサギやシカを食べるじゃないか、と言いたいがここはぐっと堪えるのが大人と言うもの。話題を変えよう。ところで、ボーイフレンドとは同居しているのかい。
女性「遠距離恋愛なの。月に一度しか会えない。ヨーロッパの他の国で働いていて来週帰ってくるの。だから朝ご飯のメニューを考えているの」
甲斐甲斐しいことだな。夕食は一緒に食べないのかい。
女性「それがね、もっと問題なの。夕食に何が食べたいの、って聞いたら『なんでもいいよ』って答えるの」
日本の女子もそういう答え方をするよ。「夕飯はなんでもいい」っていうから中華に連れて行ったら「イタリアンのほうがよかった」とか言うんだ。
女性「そういうのをドイツ語で○○○○っていうのよ」
そんなややこしい単語発音できないよ。
その後しばらくして私の降りる駅に近づいたので読者様の期待するようなことにはならずに会話終了。
とりあえず、彼女の伝言はこういうことなので関係者の方はよろしくどうぞ。
- 和食を作る練習をするので、何が食べたいか教えてください
- もっと頻繁にドイツに遊びにきてください
- できればドイツ語を片言でもできるようになってください。私の両親は英語ができません
最後はしんみりしてしまったが、こういうことがあるから鉄道の旅は面白い。
楽しく読ませて頂きました。
返信削除GAQさん、こんにちは。
返信削除もう一年前の話になりました。後日談があれば楽しいと思うのですが、残念ながら彼女とはそれっきりです。一期一会。