2008年6月30日月曜日

タイムキーパーから見た良いプレゼン・悪いプレゼン

先日シカゴで行われたYAPCでは会場係をやった。会場係は機器のトラブルなどの監視要員だが、トラブルがほとんどなかったため実質的な仕事はタイムキーパーが主だった。こういう公の場でタイムキーパーをする機会は久しぶりで、学ぶこともたくさんあった。特にプレゼンテーションの良し悪しについて考えさせられたので書きとめておきたい。

なお、特定のプレゼンターを批判する気は別にありません。

悪いプレゼン:制限時間になっても終わらない

どういう理由があろうとこれは良くない。きちんとリハーサルをしてこなかったのがバレバレだし、同じ部屋でプレゼンを行う次の人に迷惑をかける。他の部屋に移らなければいけない観客のスケジュールにも当然影響が出る。

10分休憩があるから少しくらいオーバーしても大丈夫、という考え方もまずい。休憩時間はあくまでも観客の移動時間であり、次の発表者が機器のテストを行う大切な時間と心得たい。

制限時間が超過したのに「あと3分で終わりますから」と言い訳をしつつプレゼンを続けるのも見苦しい。駆け足で発表をしたところで、どうせ観客は「早く終わんないかなー」とぼんやりしているだけで発表などちゃんと聞いていない。

悪いプレゼン:時間前に終わってしまう

制限時間を超えるほど極悪ではないが、まだ時間が残っているのにプレゼンを終わるのも良くない。時間をとって来てくれた観客に失礼だし、観客が部屋を出て他の講演中の部屋になだれ込む原因にもなる。

とはいえ、時間内に発表が終わり質問にすべて答えてしまってもまだ時間が余る場合はある。こういうときはいわゆるボーナススライドの活用をおすすめしたい。つまり、余分にスライドを用意しておき、本体の発表でカバーできなかったことを余った時間で話すのである。最初は失敗続きだったんですよ、という裏話でもいいし、分量の関係で削除した話題をここに持ってきてもよい。

悪いプレゼン:会場に遅れてくる

考えられないことだが発表の時間になっても来ない人がいる。ギリギリになって来る人もいる。事前にマイクのテストとラップトップの接続を行っている人ならまだいいが、「ん? どのケーブルをこの穴に差すんだ?」なんてことを開始時刻になってもやっているのはいただけない。

第一印象は大切だ。観客も「この人のプレゼンで勉強しに来たのに、PCの接続もできない人なのか」とプレゼンターの能力を過小評価することになる。

プレゼンテーションをうまく見せるコツ・準備編

  • できるだけたくさん練習を行って時間きっかりに終えるようにする。もちろん質疑応答の時間割り振りも考えておく。
  • 時間が余ったときに発表するためのボーナススライドを最後に入れておく。
  • 自分のプレゼンの後に同じ部屋で何が起こるか把握しておく。自分の講演の次が昼休みだと時間通りに終わらなくてもだいたい許されるが、5分休憩の後に次の発表が控えていたりすると制限時間厳守だと思いたい。

プレゼンテーションをうまく見せるコツ・当日編

  • 会場に着いて
    • そのプレゼンが行われる場の文化を理解しておく。プレゼン中に質問をする人は多いかどうか、観客の技術レベルはどうか。技術レベルが低そうならばゆっくりめに話すほうが良い。
    • 朝一番の人が少ない時間や昼休みに自分の発表する部屋に入り、接続の確認をしておく。
  • 発表の直前
    • 10分前には部屋に入る。意外に注目されているものなので自信を持って入室したい。
    • 司会者がいる場合は挨拶をしておく。学会などでもそうだが、司会者はその業界で名の通った人がボランティアでしていることが多いので顔をつないでおくのは得策でもある。
    • タイムキーパーが「残り5分」などの合図をしてくれることになっている場合は、どの時点で合図してくれるのかを確認しておく。

プレゼンテーションをうまく見せるコツ・本番編

  • 自分のスピーチ中
    • 常に残り時間を気にする。時計を見るときは視線の動きが不自然にならないようにする。
    • プレゼンの途中で質問に答えるのは疑問点を解消しておくという点でいいことだが、時間をとりすぎてしまうのは困りもの。ややこしい質問・関係ない質問をしてくる相手に対しては「その質問は最後にお答えします」と言って先に進めばよい。
  • 万が一制限時間を超過したら
    • 「時間になりましたので」と自分で締める。司会者にカットされるのは見栄えが悪い。
    • 観客が「もっと聞きたい」という雰囲気の場合に限り、空気を読んで少し時間超過するのは構わない。このとき司会・タイムキーパーと必ず目を合わせておくこと。慣れたタイムキーパーはちゃんと心得てくれる。
    • 終わりに「少し時間をオーバーして失礼しました」と詫びるのは良いが、「質問が多かったので」「機械の調子が悪くて」など言い訳をするのは蛇足。理由はどうあれ、時間管理はスピーチをする人の責任です。

2008年6月25日水曜日

予約したホテルに到着したらまだ建設中だった

シカゴに旅行をした。シカゴはニューヨーク同様ホテルがたくさんあるが、新しもの好きの私は今年オープンしたばかりのホテルを予約した。

新しいだけあってネット上にもホテルの情報が少ない。Wikipediaを見てみたら「このホテルはまだ建設中」と大きく書いてあり、Wikipediaも古い情報を堂々と載せるものだな、それとも内装が工事中ということなのかね、と思っていた。

ところが、行ってみたら本当に建設中だった。いや驚いた。日本ならありえない。

携帯電話で撮った写真がこちら。およそ80階より上の階が建設中である。ちゃんと屋上にクレーンも見える。

よく考えたら以前ベトナムの国営リゾートホテルに宿泊したときもそうだった。「オープンしたてのホテルです!」という触れ込みに惹かれて泊まったものの、行ってみたら正面ゲートすら作りかけ。花壇はあるものの花がない。池はあっても水がない。ホテル内の道路も舗装中で歩きにくい。

建前上はビーチリゾートなのだがダイビング用具などあるはずもなく、仕方なくプールにつかると塩素を入れすぎて水着が漂白されるという始末。何もすることがなくて退屈していた私は言葉が通じないなりに工事の若い衆に相手をしてもらい、ブロック塀の作り方を教わったりした。ベトナムのリゾートホテルに行く人は、ブロック塀には近づかないほうがいいです。なにせ私が作った塀かもしれない。

話をシカゴに戻すと、上のほうが工事中だからといって実際に下のフロアに影響があるわけではなく、振動・騒音などはまったくなかった。部屋の家具も新品で、楽しい宿泊だった。工事中なのが見えないように幕でもかけておけばいいのに、と思うのは私が日本人だからだろうか。

2008年6月6日金曜日

とんでもない美女が「あなたとお話したいの」(下)

前回のあらすじ)

国際列車の中で会った美女は高身長のドイツ人。食堂車内の男たちがしつこく話しかける中、ドイツ語がわからず黙りこくっていた私をテーブルに誘う。テーブルは小さく、向かい合って座ると膝と膝がくっつきそうなくらいだ。どうでもいいがこの人、身長は私と同じくらいなのに座高はずっと低い。さてそれはともかく、詐欺師か美人局か。

女性「どうしてもお話ししたかったことがあるんです。実は……」

スイスまでの電車代が足りないから3万円貸せ、それとも、病気の父の治療費が、と来るか。他の男性陣から隔離された私はかなり緊張していた。

女性「ボーイフレンドのことなんですが……」

私に彼氏になってくれとでも言うんですか。さらに詐欺的な臭いがした。お嬢さんそれはいけません。

女性「実はボーイフレンド、日本人なんです。相談に乗ってほしくて」

だから私に声をかけたんですね。ちょっと拍子抜け。

女性「朝ごはんに何が食べたいか、って聞いたら、ボーイフレンドが『味噌汁とごはん』って言うんです。これって普通じゃないですよね?」

普通だと思います。

女性「味噌って豆でしょ? なんでそれを朝に食べるんですか。豆と米は夕食に食べるものです」

私も子供の頃「コーンフレークを夕食に食べたい」と言ったら「それは朝に食べるものだ」とたしなめられたっけ。でもドイツ人は朝にパンを食べるし、日本の米はパンと同じなんだよ。ドイツでは米がサラダに入っていたりするけど。ごはんは炊いて味をつけずに盛りつけるんだ。

女性「お米は炊けると思う。味噌汁は見たこともないけど作ってみるわ。朝食には他に何を作ればいいのかしら」

あと漬け物と出し巻き卵に干物があれば最高だなあ、と思ったけれど説明しきれる自信がなかったので、魚でも焼いておけばいいよ、と答えた。

女性「私、魚は食べられないの」

なんと。全然だめなのかい。

女性「イカなら食べられるけど」

いや、それは魚じゃないから。イカは日本の朝食にはあまり登場しない。

女性「イカは魚よ。ドイツ語ではティンテンフィッシュだもの」

イカは英語でもドイツ語でもフィッシュなのか。じゃあイルカやクジラも魚なのかな、と言ったらこれが禁句だった。

女性「クジラ? そういえば日本では今でもクジラを食べているのかしら。クジラは人間の友達なのよ」

even nowに力を込めておっしゃる。ドイツ人もウサギやシカを食べるじゃないか、と言いたいがここはぐっと堪えるのが大人と言うもの。話題を変えよう。ところで、ボーイフレンドとは同居しているのかい。

女性「遠距離恋愛なの。月に一度しか会えない。ヨーロッパの他の国で働いていて来週帰ってくるの。だから朝ご飯のメニューを考えているの」

甲斐甲斐しいことだな。夕食は一緒に食べないのかい。

女性「それがね、もっと問題なの。夕食に何が食べたいの、って聞いたら『なんでもいいよ』って答えるの」

日本の女子もそういう答え方をするよ。「夕飯はなんでもいい」っていうから中華に連れて行ったら「イタリアンのほうがよかった」とか言うんだ。

女性「そういうのをドイツ語で○○○○っていうのよ」

そんなややこしい単語発音できないよ。

その後しばらくして私の降りる駅に近づいたので読者様の期待するようなことにはならずに会話終了。

とりあえず、彼女の伝言はこういうことなので関係者の方はよろしくどうぞ。

  • 和食を作る練習をするので、何が食べたいか教えてください
  • もっと頻繁にドイツに遊びにきてください
  • できればドイツ語を片言でもできるようになってください。私の両親は英語ができません

最後はしんみりしてしまったが、こういうことがあるから鉄道の旅は面白い。

2008年6月4日水曜日

とんでもない美女が「あなたとお話したいの」(上)

「ここに座っていいかしら」

ふと声をかけられた。場所はオランダからドイツ経由スイス行きの列車。食堂車の半分を占めるカフェは社交場がわりになっていて、ドイツ人がビールを飲みながら上機嫌でおしゃべりをしていた。私の横のスペースは半人分くらい空いている。無理矢理つめれば座れないこともないな、と思って顔を上げると女優みたいな人が立っていた。

人様の容姿をどうこう言うのは品が良くないというものだが、ドイツ人一同はおしゃべりをやめ、一挙手一投足を口を開けたまま見ているので、隠れ美人が多いとされるドイツ人基準でもかなりの美女らしい。高身長のキャメロン・ディアスをほっそりとさせて冷たい感じの顔にしたらそうなるかも、というルックスだった。

まずは、ドイツ人相手に議論を吹っかけていたアメリカ人の留学生マイケルが流暢なドイツ語で自己紹介。どうやらこの男は主導権を握りたいらしく、その場の全員を紹介した。自分をアピールすることに加え、さらに他人に発言させまいというこの姿勢、戦勝国ならではの自信だろうか。私のことは

「こちらは日本人だがアメリカから来ていて、ええと名前は」

とちゃんと名前も含めて紹介してくれた。10分前に教えた名前を覚えているとは、コミュニケーション力が強すぎだ。

この女性は料理を注文したようで、しばらく席にかけて待ちモード。周りの男どもは女性に「どこから来た」みたいな話をしている。女性はフランクフルト在住のFさんで、スイスに行くということだけはわかったが、その先がさっぱりわからない。美女が来るまでは私のためにドイツ語から英語への通訳をしてくれていたマイケルも私のことをほったらかしだ。

ところが、女性の料理が来てから流れが変わった。女性が英語で発した一言を聞いて全員が驚いた。

「向こうのテーブルに行って二人で食べません? あなたとお話がしたいの」

ところが一番ぶったまげたのはそれを言われた本人、つまり私である。

◇ ◇ ◇ 

こういうのは美人局、つまり背後に恐いお兄さんがいたりするものと相場が決まっているので、嫌だなと思った。尻尾を巻いて逃げようと思ったが列車内のこと、どこにも行きようがない。マイケルが「がんばれ」というように私にウィンクしてくるのが気持ち悪いなと頭の隅で思いつつ、テーブル席に移動した。

二人だけのテーブル。女性が口を開く。

「どうしてもお話ししたかったことがあるんです。実は……」

(続く)