近所のとあるご婦人は金髪のアメリカ人、お金持ちだ。悪い人ではないのだが、少し俗物の気がある人である。特に「国際的な私」を演出したいらしく、私という日本人に対しては日本の文化の理解者であるように振舞う。「先週ジャパニーズレストランのノブに行ったんですのよ、オホホ」みたいな感じ。
最近その人が犬を飼い始めた。このあたりのお金持ちはステイタスのために大型犬を飼うことが多いのだが、ご婦人に会ったときに抱いていたのは小さめのサイズだ。犬種は忘れたが中国産の種類らしい。
「この子、中国が起源ですのよ、オホホ」
ご婦人が言う。「中国」を強調するあたり、なにか嫌な予感がした。
「お名前、なんていうんですか?」
私は別に犬の名前がポチだろうとタマだろうと構わないのだが、それは会話のキャッチボールというものだ。
ご婦人は言った。
「中国から来たでしょ。だから『ミソ』っていうんですのよ」
私も大人、噴き出すのはギリギリのところでこらえたが、これには驚いた。中国の歴史を背負う由緒正しく(たぶん)プライドが高く(たぶん)血統書つきのお犬様、お金持ちの奥様に飼われて幸せなはずが、味噌……。アメリカには中華料理とミソスープを両方メニューに載せているデタラメなレストランは星の数ほどあるため、ご婦人の勘違いを責めるのは酷というものだが、このお犬様の将来や、いかに。
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