2008年4月15日火曜日

王女様とティーパーティー

ベルギーという国がある。日本からは直行便がないため旅行先としてはメジャーになりきれないが、ワッフルやチョコレート、そしてベルギービールで有名なのはご存じのとおりである。ベルギーの正式名称はベルギー王国。国名からわかるように王様がいる国だ。王国という概念は日本ではなじみがないが、タイやイギリスも王国である。ヨーロッパには王国が多く、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、オランダも王国だ。

ベルギーの王室の政治的な発言力は近年低下したそうだが、一般市民のなかでは大きな存在らしい。首都ブリュッセルには巨大な王宮が美しい姿を見せている。昨年ベルギーに行ったときは書店では王様一家のアルバムのようなものが売られていた。ちなみに王家の自動車には特別なナンバーがついており、追い越すことはご法度だとタクシーの運転手がぼやき気味に教えてくれた。

さてそのベルギーの首都ブリュッセルに滞在中、ある日の午後のこと。私たちの泊まっているホテルの中庭でベルギーのチャリティ団体が寄付を募っていた。ベルギーのプリンセス、つまり王女様が後押ししているチャリティだという。お城の中のお姫様とチャリティの組み合わせとは、真面目なものだろうか、それともお姫様のイメージアップの作戦なのだろうか。でもイメージアップなら外国人が多いホテルじゃなくて駅で募金活動をやらなきゃだめだよな。そういうことを考えつつベルギー来訪記念に寄付をした。

 ◇ ◇ ◇

手持ちの現金から払ったので決して多額ではないのだが、寄付をした人があまり他にいなかったからだろう、「お茶が用意してありますので別室へどうぞ」ということになって、テラスに通された。紅茶と一口サイズのケーキが用意してある会場だ。紅茶をついでくれる給仕の人たちの他にはテレビカメラを構えたマスコミの人が多数いた。あと私たちと同時に入ってきたお金持ちそうなご婦人が一人。この人も寄付をしたのだろうか。

お茶を一杯飲んでしまったら他にすることもないので帰ろうと思ったら、そのご婦人が話しかけてきた。ブリュッセルはフランス語圏だが流暢な英語である。

 ご婦人「どちらから」
   私「ニューヨークに住んでます。日本人ですが」
 ご婦人「ベルギーは仕事で来たのですか」
   私「いえ観光です。とてもいいところですね」(社交辞令)
 ご婦人「いいところでしょう」

ご婦人はちょっと上からの目線。ヨーロッパのお金持ちはこういう感じなので気にしないが、何をしている人だろうと思って家族のことなど聞いてみる。

   私「ご家族はご一緒ですか」
 ご婦人「ええ、階下にいますのよ」
   私「みなさんお元気でいらっしゃるんでしょうね」
 ご婦人「家族全員幸せにしています」

ふとカメラのフラッシュ。新聞社とテレビ局のカメラが私とご婦人を取り囲んで撮影をしている。あまり寄付が集まったとも思えないし、盛り上がらないイベントに終わりそうだが、だからといって私とご婦人の会話を記事にするのはかなり無理がある。給仕とカメラに取り囲まれる着飾ったお金持ち女性と普段着の日本人。妙な取り合わせだ。

 ◇ ◇ ◇

お金持ちとの会話は苦手なのでご婦人との会話はほどほどで切り上げ、さらに注がれた紅茶を飲みほし、カーペットの階段を下りて退出した。中庭に戻るとまだ寄付を募っている係の人たちがいた。

   私「ごちそうさまでした。そろそろ帰りますね」
 係の人「ありがとうございました」
   私「そういえばマスコミがいっぱい来ているけどあれはなんですか」
 係の人「今日はVIPが来ていますから」
   私「ああ、あの女の人でしょ? あの人は何者ですか」

係の人、困惑をした表情で私を見る。知らなかったのかよ、と言いたげに咳払いをする。

 係の人「あのご婦人はベルギー王国の王女様です」

今さら説明するまでもないが、すべてストーリーがつながった。王女様というのは姫、つまり子供なんだと思い込んでいた。しかしよく考えたらベルギーの国王はお年を召している。王女様はもう大人のご婦人でいらっしゃったのだ。

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